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ガラスモザイクに関する様々な事を綴り、紹介するブログ


by mosaiquedodeca
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ハサ木のある風景

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 今年の誕生日が来ると私は六十歳になります。これまで色んな事がありました。悲しかった事、辛かった事、嬉しかった事、楽しかった事、振り返ると波瀾万丈とまでは言いませんが、“結構いろんな経験をしたなあ”と思います。過ぎ去ったことはすべて泡と消えてしまいましたが、私は時間というものを少し立体的に捉えています。時は過去から未来へ流れ “現在” は常に点でしかありません。しかし、人の一生はもう少し量感を伴ったもので、経験した事はすべて厚みとなって存在し続けているように感じます。そこで、時々、私が一番幸せだったのはいつ頃だろうか?と考えることがあります。その時の記憶はそのまま今現在の私の幸せになっているように感じるからです。
 留学時代に夏休みを南フランスで仲間と気楽に楽しい事ばかり考えて過ごした時間とか、新婚当初とか、いくつか候補がありますが、この頃思うのは:それは少年時代、中学生から高校生になろうとしていたあたりではないかと・・・。中学の頃といえば体がどんどん大きくなり、力が付いてきて今まで出来なかった事が出来るようになったりします。大人の仲間入りが出来そうな、そんな喜びと気負いで胸が膨らんでいました。私は農家の息子なので、その頃よく農作業の手伝いをやらされました。祖母や母は、今にして思えば “おだて上手” だったのかも知れませんが、力仕事をやる時に本当に嬉しそうに私の仕事っぷりに驚いたり賞賛の声をあげてくれました。私は単純にそれが嬉しく、また、自分を誇らしく思えたものです。 稲作の農作業のハイライトは春と秋、田植えと稲刈りの時です。田植えは腰がきついだけであんまり力仕事はありませんが、収穫の時は男の出番です。鎌で稲を刈るのは田植え同様腰がきつくて男も女も得手不得手はないですが、その稲を束ねた物を運んだりするのは男の仕事です。田圃の柔らかい土の上に敷いた細長い板の上を、一輪車にいっぱい稲を積んだものをバランスを崩さずに運ぶのは結構難しい作業でした。力が要るのは勿論、バランスコントロールの能力が必要です。それを父親と同じくらい、いや、もっと沢山積んで運んでやろうなんて頑張ってみたりしていました。失敗して一輪車を倒してしまって怒られたり・・・そんな頃が一番幸せだったような気がします。自分では自覚していませんが、親の庇護の元で見守られているという絶対的な安心感の中で、色んな能力が身に付き伸びて行く。思春期特有の悩みはまだそれ程大きく無く、不安より期待感の方が勝っている。その頃が一番幸せだったのでは無いか? と思えるのです。


 “ハサ木”と云うのをご存知でしょうか。私の故郷新潟県の田園地帯を行くと、田圃の脇にてっぺんだけ枝葉を付けた並木が見えます。これは稲を干す為に植えられた木です。等間隔に並んでいて、枝は切ってあります。これに縄を張って稲を掛けて干します。重い稲を一輪車に乗せて田圃道まで運び終えると、このハサ木に稲を掛ける作業になります。その頃はもう夕暮れ時で、多分おにぎりか何か軽食をとってからの最後の一仕事なのでした。カーバイトという石のようなものを燃やすガス灯みたいな照明で照らしてやっていました(後にトラクターのライトに替わりました)。
 このハサ木のある風景は子供の頃(少年時代)の私が一番幸せだったと思える頃の懐かしい思い出の風景です。今、これをモザイクで制作しています。今年八十八になった母親に送る為に作っています。そう云えば私が小学校の頃ですが、母親から “子共の時が一番幸せだった” というようなことを聞いた事を思い出しました。その時はとても意外に感じたのですが、今となっては良く分かります。
by mosaiquedodeca | 2012-05-17 05:58 | ガラスモザイクの制作