ガラスモザイクに関する様々な事を綴り、紹介するブログ


by mosaiquedodeca
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デッサンのモデル

 「だっ だいじょうぶですか?」と思わず訊いてしまいました。彼は椅子にシーツを包み込むように被せたかと思うと、いきなり前屈みになり座面に肩を乗っけてひっくり返ったのです。そのまま椅子の上でガニ股開きの逆立ちで5分。 それはまるで何処かの間抜けな男が高いところから真逆さまに落ちて、地面に頭をのめり込ませて固まっている、ギャグ漫画の1コマのようでした。4回ある5分ポーズの最後のポーズでした。

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        おら〜落っこちまっただ〜


 私は千葉のNHKカルチャーセンターでデッサンの講座を持っています。月2回の講座は3ヶ月6回で1クールです。その6回目、最後の回にモデルを呼んで人体あるいは人物デッサン(クロッキー)をやります。モデルさんの都合もあるので総てではありませんが、ほぼ毎回同じ人を呼んでいます。舞踏家のK氏です。

 舞踏家のようなモダンダンサーが私の講座のモデルには一番良いのです(※)。先ず、ポーズが面白い。当たり前ですよね、その道のプロなのですから。クラシックバレーのダンサーも美しいポーズをしてくれるのでとても良いのですが、ずっとやっていると幾つかのポーズに固定されてしまいます。基本に忠実な方が多いので、あまりヴァリエーションが無いのです(人に寄るのかも知れませんが)。そこへいくと、創作ダンスをやっている方は常日頃振り付けを考えていらっしゃるのか、とても面白くて、変(失礼)なポーズをとってくれます。特にK氏は、もう5年位前から頼んでいますが、毎回面白いポーズをしてくれるので飽きません。彼も私が求めている事を良くわきまえていて、来る度に新しいポーズを考えてくれます。

 人体デッサンは20分ポーズを3回、10分ポーズを2回、最後に5分ポーズを4回やって終わります。生徒の皆さんは20分ポーズの時にはなかなかスムーズには形が取れずモタツいていますが、10分ポーズの頃にはホグれて調子が出てきます。5分ポーズになると時間に追われるせいか、バンバン描きます。

 私の指導は主に20分ポーズの時に行います。10分ポーズの時にはあまり時間が無いのでワンポイントアドヴァイス程度です。そして5分ポーズでは何か指導しようとしても、直ぐに時間切れになってしまうので、見て回るくらいしか出来ません。そして特に面白いポーズだと私も描きます。前回は面白いポーズばっかりだったので3枚も描いてしまいました。上のデッサンはその最後のポーズです。

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     シーツの端を掴んで腕にぐるぐる巻き マント? それとも翼?

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   布ですっぽり包んだ頭を抱えて込んで身もだえている人 一体何を悩んでいるのか?

 K氏の舞台を見に行った事があります。その時、教室で取るポーズの元がここにあると思いました。ズタズタの布を身につけ、棒などの小道具を使って次々に色んな振り付けのダンスを展開して行きます。何かを描写しているような意味ありげな動き、見た人が勝手に何か物語を紡げそうな踊りでした。そしてそれを見て、教室で取るポーズを見ながらいつも感じていた事と同じ事を感じました。それはユーモラスだということです。激しい踊りなのですが、所々に思わず微笑んでしまうような何となく可笑しい動作が・・・。教室では一言二言位しか言葉を交わしませんが、片頬笑いの笑顔で少し恥ずかしそうに話す彼の人柄そのものが出ている舞台だと思いました。

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   これは別の時に描いたもの 背中の筋肉が見事だったので描きました


※ パリの装飾美術学校にいた時に人体デッサンの授業でダンサーがモデルをした事がありました。その時講師が彼にスローに動き続けるように指示を出しました。彼は非常にゆっくりと、さまざまなポーズを切れ目無く展開していきました。我々学生はそれを大急ぎでデッサンし続けるのです。左から右に連続的にデッサンが出来上がります。スポーツ選手の動きを分析する為に撮った連続写真のような具合です。最初は動く人なんか描けるものかと思いましたが、描いてみるとこれが結構面白い。胴体を描いている内に腕の形が変っていく。腕を追っかけていると胴体の傾きが変化し、重心が右足から左足に移る。立っていたと思ったら徐々に屈んで行き、寝そべってしまう・・・というような状況で、必死になって線をひいている内に、運動感のあるとても活き活きとした連続デッサンが出来上がっていました。

ダンサーをモデルに呼ぼうと思ったのはこの時の経験からです。カルチャーセンターではさすがに連続デッサンは難しいと思ったので、短時間のポーズにしている訳です。短時間のポーズだとモデルさんも思い切ったポーズがとれます。20分は持たなくても5分なら維持出来るという奇抜なポーズが可能になるのです。

舞踏家と云う存在を初めて知ったのはやはりパリにいた時でした。1970年代の最後の頃、大野一雄さんがヨーロッパで路上ライブをやっておられた時、パリの小さい教会の前で「アルヘンチーナ」という演目の踊りを見ています。その後大野さんがヨーロッパツアーをされた時にもパリの劇場で見ました。この時は友人のピアニスト(日本人)が演奏家として雇われて一緒にヨーロッパを回っていたので、彼から無料のペアチケットを貰いました。そこで仲の良かったクラスメイト(パトリシア)を連れて見に行きました。終了後、楽屋を尋ねたら大野さんが迎えてくれて、握手をしてくれました。パトリシアはこれに感激して「握手してもらった!」って大喜びで言っていたのを憶えています。

同じ頃、田中泯さんもヨーロッパで路上ライブのような事をやっていて、ある時装飾美術学校の中庭で踊りました。これは学校の講師が個人的に彼を呼んで来て、昼休みに踊って貰ったのです。泯さんは大事なところを袋ごと包帯で巻いて隠し、素っ裸に白粉を塗った格好でうずくまった状態から踊り始めました。そしてゆっくりと体を伸ばしていき、ひっくり返ったり、縮こまったり、トカゲのような格好をしたり・・・(おそらく、振り付けでは無い)色んな動きをしました。階段を背中から逆さまに降りたシーンと “最初の形は胎児の形なのか?” と思ったことを憶えています。大野さんの教会前のライブもそうでしたが、いわゆる大道芸なのでノーギャラです。従って終了後、講師が観客(学生達)から帽子にお金を集めて回っていました。

そして、美術学校の講師が、集めた幾ばくかのお金を渡して、高名なアーチストをそのまま帰す訳がありません。その後は階段教室に移ってインタビューです。泯さんには通訳の女性がついていました。ところがその方「折角日本人の学生が居るのだから学生同士でやったら良い」と言って、私を通訳に指名してきました。もう1人下級生の日本人の女の子がいたのですが、太々しい顔をしていた私に(多分当時はそんな顔をしていたと思います)お鉢が回った次第です。

仕方なく、というより半分面白がって通訳を引き受けました。学生の色々な質問を日本語に訳し、泯さんが考えながらゆっくりと答えるのをフランス語にして伝えました。そしたらある質問の時、調子に乗って自分の感想というか見解を付け加えてしまい、通訳の女性に怒られてしまいました。 “日本(で踊っている時)とヨーロッパでは何か違いがありますか?” という質問に泯さんが、身体表現家らしく身振り手振りを交えながら、「空気が違う」と仰ったのを訳した時です。「気候、湿度もちがいますからね」って、ついうっかり付け加えてしまったのです。そしたら通訳の女性に日本語で「違う!違う!そういう意味じゃない!」って即座に否定されてしまいました。そりゃあそうですね。そんな単純な意味じゃありませんよね。でも “空気が違う” なんて抽象的な事を言われたって・・・ “意味分からない” って思って、余分な、何の意味も無い事を言ってしまったのです。しかし、直訳でもいいからそのままの言葉を言った方が、聞いているフランスの学生が意味を考えるから却ってよかったのだろうな、と今は思います。
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by mosaiquedodeca | 2016-04-14 22:41 | 絵画の教室 | Comments(0)