ガラスモザイクに関する様々な事を綴り、紹介するブログ


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大工の棟梁阿保さんとの出逢い

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 朝7時過ぎのことです。我が家の愛犬クーコの散歩の途中、家の前へ続いている道を歩いていると、後ろから来た大型のワゴン車がすーっとスピードをゆるめ、運転席から「おはようございます」という声がしました。声の主はこのブログで何度かご紹介している大工の棟梁、阿保昭則さんです。最近彼の会社「耕木杜」がモザイクハウスの近くに引っ越してきました。阿保さんは毎日我が家の前を通って会社に行っているのです。それでこの頃、今日のように家の近くでバッタリということがよくあります。

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 その耕木杜の事務所の建物はまだ完成していないのですが、台所とトイレの壁にガラスモザイクの装飾を頼まれています。彼とは結構長い付き合いですが、今回が初めてのコラボレーションになります。大体出来ているのですが、今イメージを固めているところです。それについては制作に取り掛かったらまた報告させて頂くとして、今回は阿保さんとどういう訳で知り合ったのかをお話しします。

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     右の建物が事務所になります

 4月26日に書いた日記で我が家の近くに阿保さんの建てた家があることをお話しました散歩道。きっかけはこの家だったのです。我が家を建てた工務店の社長さんに、凄い腕の大工さんが建てた家があるからと、見に行くことを勧められて行ったのが最初でした。私が見に行った時は阿保さん本人はいませんでした。阿保さんの代りに当時弟子だった田中さんという大工さんが案内してくれました。その時に阿保さんのカンナ削りの腕の凄さを説明されました。「うちの親方は凄いんだ。親方の削った鉋屑を新聞の上に敷いてもはっきり字が読めるんだ。」などということを聞いたのを憶えています。その時はそれがどんなに凄いことかもあまり解っていなかったので “へえー、そうなんだ” (※1)と言う感じでした。それより案内された洗面所を見た時に色彩のコーディネートが良く無いということが気になりました。この家は玄関から奥の部屋に行く導線が狭くなっていて洞窟に入って行くような感じにしてあります。そこを通り抜けると急に視界が広がるのがドラマチックで良い演出だと思いました。また、一番奥の座敷の窓が低くなっていて、座った時に外の田圃の景色が丁度良い構図に見えることなど、空間の作り方が素晴らしいのに、どうも洗面所の中だけがそぐわない気がしました。その日1人で見に行った私はそんなことを思いつつ、そのまま何も言わずに帰って来ました。
 しかし、家内は違っていました。別の日に見に行ってとんでもない発言をして来たのです。彼女が行った日は、阿保さん本人が居たのだそうです。聞く所によると、家内は洗面所に入った途端「うわ〜何この色。気持ち悪い!」と言ったのだそうです(最近聞いたらそこまでは言ってないということでしたが)。とにかく、色彩が調和していないということを本人にズケズケと言ったらしいのです。私だったら、たとえ本人がその場に居たとしても言わなかったと思います。まったく女って奴は(済みません、多分一部の女の人だけですね)何と言うか、怖いもの知らずと云うか・・・凄腕の大工さんに向かって何の遠慮もせずに良くそういうことが言えるもんだと思いました。

 ところが、です。阿保さんはそれを聞いて、逆に興味を持ったのだそうです。後日彼は、事務所の峰岸さんを伴って我が家を尋ねてきました。それまで彼にそういう事を言う人はいなかったということでした。  “そんなことを言う人はいったいどんな家に住んでいるのだろう? 見てやろう” と思ったのだそうです。
 その時、モザイクハウスはどのくらいまで完成していたのでしょうか? 浴室のモザイクは出来ていましたが、洗面室はどうだったか? 居間とキッチンのモザイクは? ・・・はっきりとは憶えていません。とにかく家の中を案内しました。そして、お茶を飲んで話が盛り上がったのです。その時いろんな事を話したのを憶えています。その日の話の主題であった色彩の調和のことや住宅デザインのことは勿論、使う材料の事などにも話は及びました。「プラスチック製品はあまり好きでない、化粧合板の家具も避けたい、出来るだけ天然の材料を使いたい」などということで意見が一致したのです。たとえば我が家には既製品の照明器具が一切ありません。工務店の持ってきたカタログを見て、デザインが気に入ったものが一つも無かったので、天井から線だけを出してもらって器具は全部後からくっつけました。 “ジョイフル本田( ※2)” に行って、陶磁器のソケットを買って来て取り付けたのです。トイレットペーパーホルダーも工務店が付けたプラスチック製のものを外して、家の余った木材で作りました。ですからガラスモザイクをふんだんに使った装飾が施されていますが、全体としては素朴な感じの家なのです。フランスに住んでいる友人が来た時など、「スイスの山小屋にいるみたいだね」と言ってました。とにかく、そんなこんなでえらく打ち解けて、意気投合し、友達になったという次第です。
 まあ、妻の無謀な一言が功を奏したという訳です。この間、耕木杜の事務所でコーヒーをご馳走になった時、その時の話になったら「阿保さんが何でも思ったことを言ってもいい雰囲気の人だったから」と言い訳をしていました。確かにそういう頭の柔軟な素晴らしい人ですが、何と言ってもその時が初対面ですからねえ・・・。

※1 ところで、カンナ削りの腕前が良いということがどういう意味を持つのか、阿保さんと付き合っているうちにだんだんと分かってきました。日本のいわゆる伝統工法と呼ばれる建築は、木組みの精度でその強度が全く違うようなのです。つまり、建築基準法で指定されている斜交いの場所や、ボルトの数量などのように設計図や数値で分かる強度でなく、目に見えない “大工の腕前” が地震などに強い家を造る上で大事だということなのです。阿保さんはカンナ削り大会で、他の “腕に覚えのある” 大工さん達を大きく引き離して、考えられないような薄さの記録を持っています。それは、刃物を研ぐ技術が並外れて凄いということでもあります。刃物がちゃんと研がれていなければ、削る木の寸法が正確に出せません。つまり、木組みの精度が作れないということです。長持ちする丈夫な家を造ることが出来ないということになります。カンナ削りを競う大会があるという事はそう云った大工さん達の技量をコンテストにして分かり易く広報して人々の意識を高めようという目的があるのでしょう。こんなことは素人の私が説明するようなことでもありませんので、これで止めておきます。しかし、私自身が経験した驚きの事実をご披露して、その意味の一端をご説明することにします。
 我が家の台所はシンクと調理台、ガス台などが一体となっている既製品だったのですが、ある事情で上の部分だけ残して下の戸棚や食器入れの引き出し、食器乾燥器などを取り外すことになりました。その時、阿保さんに相談して造り直してもらうことにしたのです。土台などを檜材で作ってもらったのですが、何しろ水の掛かるシンクの手前の部分などが、檜とはいえ木材です。水で腐ったりしないのだろうか? と心配でした。阿保さんは「大丈夫!」と断言しましたが、全くその通りでした。何年も経っているのにシミや汚れが付かないのです。何故か? それはカンナで削ってあるので木の細胞が壊れれておらず、そのため水が染み込まず、はじくなからなのです。
 もう一つ。当時我が家には、猛描と云うべき “プータ” が住んでいました。彼はしょっちゅう爪研ぎをしていました。それは、二階にあるむき出しの柱がササクレルくらいヒドかったのです。このままではヤバいと思って段ボールで覆って保護していました。ですから、土台の板で彼が爪を研ぐのではないかと心配しました。折角阿保さんが作ってくれたきれいなものがズタズタにされてはたまらんと思っていたのですが、プータは全くそこでは爪研ぎをしませんでした。何度か爪を研ごうとしているところを目撃しましたが、結局研がなかったのです。いや、研げなかったというのが正しいです。爪が引っ掛かる所が何処にも無かったのです。考えてみればあたり前ですね。真っ平らなのですから無理です。こんなことは大工さんの世界ではあたり前のことなのかも知れませんが、私たちにとっては驚きでした。

※ 2 “ジョイフル本田” は千葉県、茨城県の周辺にしかない、全部でも20店舗くらいしか無いホームセンターです。店舗数は少ないのですが、他のホームセンターには無いものを取り揃えています。私のようなファンには「夢のホームセンター」なのです。

追伸 色彩の選択がイマイチだった洗面室は、その後すぐに阿保さんがやり直して良い感じになりました。
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by mosaiquedodeca | 2010-06-14 08:29 | 阿保さんと耕木杜 | Comments(0)